海外留学における健康管理方法
英語学習、企業研修、学位取得など、さまざまな目的でさまざまな地域に留学する方がいらっしゃると思います。大学を休学したり、仕事を辞めたり、海外の教育機関へ進学したりと、大きな覚悟と共に踏み出す海外留学だからこそ、思う存分、さまざまなことに挑戦してきていただきたいと考えていらっしゃるのではないでしょうか。
やりたいことに思い切り挑戦していくためにも、心身の健康状態は非常に大切です。しかし、生活環境や食事環境、気候や時差などに変化が伴い、言葉や文化、習慣などのストレスを伴う留学では、時に健康管理が難しいこともあるでしょう。
今回は、皆さんが、より一層充実した留学経験を積めるよう、留学での健康管理方法をご紹介します。
1、まずは事前の情報収集が大切!
2、持病をお持ちの方へ
3、常備薬や風邪薬などの準備
4、留学中の生活で気をつけるべきこと
5、予防接種
6、メンタルヘルス
7、さいごに。
1、まずは事前の情報収集が大切!
健康面をいくら気づかったところで、鳥インフルエンザやデング熱、エボラ出血熱などが猛威を振るっている地域に行けば、健康面に危険を及ぼすリスクが高くなるのは当然ですし、今まさにリゾートホテルにおける銃撃事件が報告されているフィリピンなどの地域に行くのは、外務所の海外安全ホームページにて渡航中止勧告が出されるほど危険です。
海外留学中の健康管理、第一ステップは、「情報収集」です。
インターネット上での誰かのブログや、はやりのキュレーションサイトなどからの明確な根拠があるかどうか不透明な第二次、第三次情報ではなく、一次情報をあたることが大切です。
渡航先地域の情報を入手するのであれば……
危険度を知りたいなら!
外務省海外安全ホームページ
http://www.anzen.mofa.go.jp/
感染症流⾏状況・予防接種の要否を確認するなら!
FORTH|厚生労働省検疫所(海外渡航者のための感染症情報)
http://www.forth.go.jp/
CDC Travelerʼs Health|アメリカ
https://wwwnc.cdc.gov/travel/
Fit For Travel|イギリス
http://www.fitfortravel.nhs.uk/home.aspx
International Travel and Health|世界保健機関(WHO)
http://www.who.int/en/
留学先での医療機関・⽣活環境についての情報収集は……
世界の医療事情 | 外務省
http://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/medi/
予防接種を受けられる病院、旅行先でのトラベルクリニックに関する情報は……
FORTH|厚生労働省検疫所(海外渡航のためのワクチン)
http://www.forth.go.jp/useful/vaccination.html
日本渡航医学会(学会推奨 海外トラベルクリニックリスト)
※トラベルクリニックとは、海外渡航者のための診療所です。渡航先に応じた予防接種や予防薬処方、帰国後の診察などを行っています。
http://jstah.umin.jp/02tcForeign/index.html
2、持病をお持ちの方へ
既往症をお持ちの方の場合、海外留学生保険*にご加入いただいていたとしても、原則的に、既往症に対する治療や、既往症を原因とした損害・損失などに対しては補償されません。
*海外留学生保険については「留学生活を守る海外留学生保険とは?」をご参照ください。
海外留学生保険による保証が効かないため、留学中も継続的な治療や処方が必要な方の場合、費用面は全額私費負担となります。また、海外ともなると必ずしも日本と同じ薬や治療を継続的に受けられるか、処方してもらえるのかは、わかりません。今まで継続的に診てくれているかかりつけ医からも離れることを考えると下記のようなことを準備しておかなければなりません。
1、主治医ときちんと話合うこと。
「時折、〇〇という疾患を持っているのですが留学できますか?」というご相談をいただきます。ワールドアベニューでは残念ながら、これらのご質問に対して適切な回答を行うことができません。理由は、ワールドアベニューの留学カウンセラーは留学のエキスパートであっても、医療に関するエキスパートではないからです。
既往症をお持ちで、現在の健康状態で留学できるかどうか、留学するとしたらどのくらいの期間であれば可能なのか、留学する際の投薬や継続的な治療の可否、必要な場合はどのように行っていけばいいのかなど踏まえ、現在の主治医にきちんとご相談ください。
2、留学を許可する診断書の提出すること。
ワールドアベニューでは、医師からの渡航を許可する診断書をご提示いただいております。
主治医に留学の可否を相談している際、このくらいの渡航期間であればいいかもしれない、環境を変えてみることはポジティブに働くかもしれないなど、さまざまな話が出てくるでしょう。留学はポジティブにもネガティブにも、刺激がありストレスがあります。慣れ親しんだ日本での生活とは全く異なる文化・習慣・言葉の壁があり、ご両親様やお友達など、理解し支えてくれる方のいない環境で、一人生きていかなくてはいきません。最悪の場合、生死にも関わる重要な判断をいい加減に行うことはできません。よって、専門家からの判断をもってご留学をご決断いただくためにも、渡航を許可する診断書をご提示ください。
3、英文照会状、薬剤所持証明を準備すること。
留学期間中に、留学先の医療機関に受診する必要がある場合、主治医の方から英文の照会状を数枚用意いただきましょう。海外の医療制度によっては、必要な専門科医にかかることが難しいケースも多く、照会状なしにスムーズな専門医への受診が困難な場合があるためです。
また、留学期間中、まとまった薬を処方してもらう場合も、同様に英文の処方箋を用意いただきましょう。内容としては病名、薬の名前、成分、その用途などです。とくに粉末薬の場合、通関の際に違法薬物と誤解されると非常に厄介です。薬を没収されるだけではなく、最悪入国できない可能性もあります。必ず英文で作成し、手荷物に入れておきましょう。
4、留学中の薬の準備をすること。
先述している通り、既往症を対象とした留学中の治療や処方には海外留学生保険が適応されません。よって、治療や処方に対する支払いが高額となってしまうことが多いため、可能であれば、余裕を持って少し多めにご持参いただくようにしましょう。
長期間の留学ともなると、留学期間中の薬をすべて処方してもらうというのは困難なケースが多々あります。多少高額でも留学先での入手が可能なのかどうか、また入手できない場合や処方に伴い医療機関への受診が必要な場合、日本へ一時帰国するのか、そのまま留学先での診察・処方が可能なのかどうかも併せて確認するようにしましょう。
大量の薬を持ち込もうとすると英文の処方箋があっても、没収されることがあるため、持参する量にも十分に注意しましょう。
5、日本の健康保険制度を十分に確認すること
海外の医療機関で受診した場合、当然のことながら日本の健康保険証は使用できません。しかし、健康保険制度で認められている医療費については、留学から日本へ戻った際、手続きを行うことで、海外の医療機関で支払った費用のうち、日本の国内価格に換算したうえで、本来の自己負担分を除く費用が給付されます。申請時には、海外療養費支給申請書や海外の意思が記入した海外診療内容明細書などいくつかの書類が必要です。
既往症があり、留学期間中に留学先の医療機関を受診する可能性や、治療を受ける可能性のある方の場合、必ず留学前に、必要書類や申請時の必要手続きなどを確認しておきましょう。
健康保険に関するお問合せ
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/
国民健康保険に関するお問合せは、お住まいの市区町村へ直接お問合せくださいませ。
6、飛行機への搭乗可否を確認すること。
航空機の搭乗に際して一部の既往症に対しては、医師からの診断書(許可)の提示を求められることがあります。
WHO(世界保健機関)でも、「コントロールが不十分なメンタル疾患」や「狭心症、あるいは安静時に胸痛がある方」など、一定の状況の方は搭乗を控えるよう規定を設けています。
筆者も海外出張などで航空機に搭乗する際、車いすの方や体が不自由な方も多く見かけます。よって、身体に障害があるから、既往症があるからといって、海外留学を必ずしも諦める必要はありません。しかし、先述している通り、お客様の大切な命のかかわることだからこそ、慎重な判断と万全の体制が必要なため、各受入機関にはさまざまな制限や条件があります。留学当日、航空機への搭乗条件や必要書類を提出できず留学できなかったなんてことがないように、事前に諸所の条件を確認するようにしましょう。
例:ANA(おからだの不自由なかたへの空の旅へのお手伝い)
https://www.ana.co.jp/service-info/share/assist/index.html
3、常備薬や風邪薬などの準備
既往症とまでいかなくても、偏頭痛があったり、アレルギー体質だったり、鼻炎症だったりと、症状に合わせてよく利用している薬がある場合は、自分自身の体質にあった薬を日本から持参しましょう。筆者も経験がありますが、留学先の市販薬は日本の薬に比べてやや用量が多かったり、通常日本では処方してもらわないと入手できない薬が販売されていたりすることがあります。実際、アメリカでもっとも一般的な解熱鎮痛剤薬は4~6時間おきに650mg服用するよう記載があります。しかし、日本人の場合、この半分程度で十分です。
あまりにも慣れない量を服用してしまうことで、肝機能に障害を持たせたり、その他副作用が出たりする可能性もあるため注意しましょう。
また、国によってはマリファナやコカインなど各種ドラッグが日本よりもやや入手しやすい環境にあります。筆者自身もイギリス留学期間中、たばこを吸うのと同じ感覚で人々がマリファナを常用する姿を見かけたことが何度もありますし、ロンドンなどの都心部では一本暗い路地に入ると、コカインなどを常用している姿も、ある意味「普通」にありました。時にはドラッグによってはその形状が、市販薬(バファリンなどの一般的な薬)に類似していることもあり、他人から薬をもらうのは得策ではありません。きちんと現地の医療機関で処方してもらった薬やドラッグストアで購入したものであれば問題ありませんが、友人・知人からの入手には十分注意した方がよいでしょう。
4、留学中の生活で気をつけるべきこと
留学中の生活にも十分に注意が必要です。ある程度、先進国であれば下水も整備され、水道から水を飲む際に大きな影響はありません。しかし、近年「安さ」で注目を集めたフィリピンやフィジー、また、先進国であっても一部の地域では、水道からの水の接種や日々の生活の中での食事に十分に注意が必要です。
注意1:発展途上国では水道水は飲まない!
日本を含む先進国は下水が整備されている国が多く、水道から水を飲むのに、健康上、大きな問題はありません。
しかし、発展途上国と呼ばれる国では残念ながら下水道に汚水(下水)や地下水が混入していることが珍しくありません。お腹を下したり、感染症にかかったりなど、多くの疾患の原因となるため、特に発展途上国での水道水は飲まず、ミネラルウォーターを購入し飲む方が得策です。
注意2:発展途上国では、氷や路面店で売られるカットフルーツに注意!
発展途上国で気を付けなければならないのは、水道水だけではありません。水道水から作られている氷やジュース、コーヒー、紅茶、そしてその水で洗われているフルーツなど火の通されていないものも食べることは避けた方がいいでしょう。
フィリピン留学で、短期集中、1日8時間勉強コース!なんて組んで行ったにも関わらず、「食中毒で1週間ベッドの上で過ごしました」なんて話も実はよく聞きます。日本で多少、胃腸が強いからと言って衛生面の整った日本と、下水すらまともに整備されていない発展途上国とを一緒に考えてはいけません。
注意3:生卵は食べちゃダメ!基本的に火を通すこと!
注意1、2にみられるように、飲むことはもちろん、料理する際に必要不可欠な水がそもそも危険で、飲むことで食中毒を起こしたり感染症胃腸炎になったりする可能性があります。また、海外では習慣的に魚も肉も「生」で食することがありません。したがって、卵や野菜の賞味期限がやや長めで、日本の賞味期限であれば「生」で食べられるものが、海外では食べると危険なものも多々存在します。代表的なのは、お肉と卵です。卵、お肉は必ず火を通すようにしましょう。
5、予防接種
鳥インフルエンザやエボラ出血熱など、テレビの中で見る感染症や、その感染症によって人々が亡くなっていく姿を見て、どこか遠くの世界で起きていることで自分には全く関係ないこと、ごく一部の世界で起きていることで、自分は近隣の地域に行っても、まず感染することなんてないだろう……。日本人留学生の多くは不思議とこのように考えています。それは、日本が平和で治安がよく、感染症などのニュースも大学受験シーズンにお茶の間を騒がせるインフルエンザくらいしか、目の当たりにしたことがないからでしょう。しかし、世界は平和ボケした私たち日本人が想像し得ないくらい、残酷でさまざまな危険をはらんでいます。
日本で生まれ育って、ある程度の年齢に達している方の場合、幼いころにワクチン接種を行い、基本的な感染症に対して抗体を持っています。しかし、世界には、「予防接種でしか予防できない病気」や「予防接種で有効に予防できる病気」なるものが存在します。オーストラリアやカナダ、ニュージーランド、イギリスなどであれば大きな心配はありませんが、フィリピンやフィジーなどへの留学となると有益性が危険性を上回ると考える国では積極的に予防接種しておきましょう。
どの国でどの予防接種をうけることが推奨されているのか?に関しては、FORTHのサイトをご参照ください。
▼海外渡航で検討する予防接種の種類の目安
http://www.forth.go.jp/useful/vaccination.html
予防接種をしたとしても万全ではありません。
蚊刺症(マラリア)、狂犬病、新興感染症(鳥インフルエンザ、中東呼吸器症候群(MERS)エボラ出血熱など)など、蚊や犬、哺乳類、鳥、ラクダなどとの接触には十分注意するなど留学先での感染には十分注意しましょう。
6、メンタルヘルス
留学期間中は、ポジティブな方向にもネガティブな方向にも、刺激がありストレスがかかります。
筆者も留学したのは21歳。アルバイトや部活動、さまざまなことを努力して成し遂げてきた経験があった年齢だからこそ、留学でホームシックになるのではないか、言葉が話せず理解できず、ふさぎ込んでしまうようなことがあったらどうしよう……、そんな不安はほとんどありませんでした。
実際、留学期間中、「帰りたい」「辛いからもうやめたい」そんな風に考えたことは一度もありませんでした。しかし、実際には、日本で生活していたときよりも肌が極端に荒れたり、席が止まらない時期があったりと、気持ちは前向きでも感じていたさまざまなストレスが体に出ていたのではないかと思う時期もあります。
留学直後は、新しい街並み、生活、人々との出会いに気持ちが高まり一種の高揚状態になります。しかし少しするとカルチャーショックや言葉の壁などにぶつかり、戸惑いを覚えたり自信を喪失したり、焦ったり不安を感じたりする時期がやってきます。その後、徐々に生活に慣れてきて、言語力にも自信を持てる機会が増えていきます。人間関係も豊かになるなかで初期に感じた喪失感は薄れていきます。異文化の中で、他の文化や人々の異なる考え方や習慣、価値観、宗教などを理解し互いに尊重し合うことの大切さを学んでいきます。
悩みを打ち明ける友人ができたり、ホストファミリーとも親密な仲になれたりすることで、徐々に成功体験も増え、自己効力感が戻ってきます。
気が付けば、英語力も、海外での生活も、友人作りも、最初に躓いたことなんてなかったかのように前向きに生活できるようになります。
大きなストレスを感じたときや、悩みや不安を一人で抱えきれなくなったときは、一人で悩まず、日本の家族でもサポートしているエージェントや留学カウンセラーへでも、友達でも、場合によっては専門家(心理カウンセラーなど)に相談しましょう。
ご注意いただきたいこと:
双極性障害やうつ病、パニック障害など、もともと精神疾患を抱えている方で通院・投薬している方、定期的に検診を受けている方などは、留学を決断する前に、必ず主治医や家族ときちんと相談しましょう。「環境が変わればいい方向に向かう…」という楽観的な思考に基づいての留学はおすすめできません。十分に注意しましょう。
7、さいごに。
いかがでしたでしょうか。海外留学における健康管理方法は、留学中の健康管理も大切ですが、留学前の情報収集、準備、確認などが最も重要です。健康な体と心は、充実した留学の実現に繋がります。留学先として選ぶ地域も「費用面」だけに捕らわれず、安全性や危険性、その地域での生活のしやすさ、医療体制なども踏まえ、決定するようにしましょう。
前の記事> 25. 海外の友だちの作り方
次の記事> 27. 留学中に気をつけたい食生活